Beranda / BL / 響きあうカデンツァ / 第五章 最初の共演

Share

第五章 最初の共演

Penulis: 海野雫
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-14 19:00:01

 発表会当日の朝、響は何度も吐き気を催した。

 鏡の中の自分は青白く、目の下には隈ができている。昨夜はほとんど眠れなかった。ベッドに横になっても、心臓の音がうるさくて眠れない。寝返りを打つたびに、不安が押し寄せてくる。天井を見つめ、時計の針が進むのを数え、また天井を見つめる――その繰り返しだった。

 今日、藤堂が自分の曲を歌う。

 大学の講堂で、二百人以上の観客の前で発表会が行われる。また、笑われるのではないか、気持ち悪いといわれるのではないかと不安になる。高校の時のように、噂が広まり避けられたり、机の中にメモが入れられたり、廊下で指を差されたりするのではと考えてしまう。

 響は洗面台に顔を埋めた。冷たい水で顔を洗う。水滴が頬を伝い、シンクに落ちる音が響く。鏡の中の自分に、言い聞かせる。

 ――大丈夫。藤堂を信じろ。

 だが、心臓は激しく脈打ち続ける。手も、微かに震えている。

 朝食は喉を通らなかった。コーヒーを一口飲もうとしたが、吐き気が込み上げてきて、諦めた。部屋の中を行ったり来たりする。時計を見る。まだ午前九時。発表会は午後二時から。あと五時間もある。

 響は、藤堂からのメッセージを読み返した。昨夜届いたものだ。

『明日、頑張る。お前の曲を、絶対に最高の形で届けるから』

 その言葉を何度も読み返す。藤堂を信じよう。この人は、自分を裏切らない。そう自分に言い聞かせる。

 だが、不安は消えなかった。

 午前中、響はずっと部屋にいた。作曲をしようとしたが、集中できない。本を読もうとしたが、文字が頭に入ってこない。ただ、時間が過ぎるのを待つだけだった。

 正午になり、響は簡単にパンを食べた。ほとんど味がしなかった。

 午後一時、響は大学に着いた。

 講堂に向かう足取りは重い。一歩一歩が、鉛のように重い。廊下を歩くたび、すれ違う学生たちの視線が刺さるような気がする。彼らは響のことを知らないはずなのに、まるで全員が自分を見ているような錯覚に陥る。

 廊下の掲示板には、発表会のポスターが貼られている。出演者の名前が並ぶ中、「藤堂晴真」という名前と、

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 響きあうカデンツァ   5-3

     響の部屋に着くと、二人はすぐに抱き合った。 扉を閉めるやいなや、藤堂が響を壁に押し付け、激しくキスをする。さっきとは違う、熱を帯びたキス。欲望が滲むキス。 響は、藤堂の髪に手を絡めた。柔らかい髪が、指の間を滑る。 藤堂の手が、響のシャツのボタンに触れる。 ゆっくりと、一つずつボタンを外していく。その手つきは、丁寧だった。急がず、響の反応を確かめるように。 響は、息が荒くなり、心臓の鼓動がどんどん早まっていく。全身が熱くなっていた。藤堂も、自分のシャツを脱ぎ始めた。ゆっくりとボタンを外し、シャツを肩から滑り落とすと、筋肉質な体が露わになる。二人の肌が触れ合い、その温もりと柔らかさが、響に伝わってきた。藤堂の体温と心臓の鼓動を、響ははっきりと感じた。 その瞬間――響の体が、固まった。 突然、高校の時の記憶がフラッシュバックする。 告白した時の、あの教室。「気持ち悪い」 その言葉を浴びせられた時の、あの表情。「ホモとか、ありえない」「お前、マジで終わってる」 笑い声。嘲笑。軽蔑の眼差し。 机の中のメモ。 『きもい』 『死ね』 『普通じゃない』 あの言葉が、頭の中で何度も反響する。繰り返す記憶――机の中のメモ、廊下での笑い声、教室での孤独。すべてが一度に蘇ってきた。呼吸ができず、胸が苦しい。体が震える。藤堂は、そんな響の変化にすぐ気づいた。「……響?」 藤堂の声が、心配そうだ。遠くから聞こえるようだった。 響は、震えていた。体が、いうことを聞かない。頭では分かっている。藤堂は違う。藤堂は、自分を受け入れてくれている。 でも、体が――心が、拒絶している。「ごめん……俺……」と、響の声がかすれる。涙が溢れそうになる。こんな自分が情けない。「無理、だ……」 そういうのが

  • 響きあうカデンツァ   5-2

     発表会が終わり、出演者たちの打ち上げがあった。 響は参加するつもりはなかったが、藤堂に強引に連れてこられた。学内のカフェテリアを貸し切って、軽食とドリンクが用意されている。テーブルには、サンドイッチやケーキ、ジュースやコーヒーが並ぶ。華やかな雰囲気。笑い声と談笑の声が響く。 響は隅で黙っていたが、次々と学生たちが話しかけてきた。「あの曲、すごく良かったです」 女子学生が目を輝かせていう。その目は、赤く腫れていた。泣いたのだろう。「本当に感動しました。私も泣いちゃって」「作曲したんですか? もっと聴きたいです」 男子学生が興味深そうに尋ねる。「どういう経緯で、あの曲が生まれたんですか?」「藤堂さんと、また共演してください」 ピアノ科の学生が、笑顔で頼む。「次の発表会も、ぜひお願いします」 響は戸惑いながらも、小さく頷いた。自分が肯定され、認められているという実感が、少しずつ湧いてくる。胸の奥が、じんわりと温かい。 こんな経験は、初めてだった。 高校の時は、避けられた。笑われた。机の中にメモを入れられた。 だが今は――こんなにも、多くの人が自分の音楽を認めてくれている。 美咲も、打ち上げに来ていた。響の元に近づいてきて、微笑んだ。「やっぱり、素晴らしかったわ」 美咲が響の手をそっと握った。「私も泣いちゃった。あの曲、本当に美しい」「……ありがとう」 響は小さく答えた。「私、やっぱりあの曲を弾いてみたい」 美咲は真剣な目でいった。「今度、楽譜を見せてもらってもいい?」 響は少し迷ったが、頷いた。もう、怖くなかった。美咲なら、自分の曲を大切に扱ってくれる。そう信じられた。 藤堂は、少し離れた場所で仲間たちと談笑していた。北川怜や他のバンドメンバーたちに囲まれている。時々、響の方を見ては、微笑みかけてくる。その笑顔は、誇らしげだった

  • 響きあうカデンツァ   第五章 最初の共演

     発表会当日の朝、響は何度も吐き気を催した。 鏡の中の自分は青白く、目の下には隈ができている。昨夜はほとんど眠れなかった。ベッドに横になっても、心臓の音がうるさくて眠れない。寝返りを打つたびに、不安が押し寄せてくる。天井を見つめ、時計の針が進むのを数え、また天井を見つめる――その繰り返しだった。 今日、藤堂が自分の曲を歌う。 大学の講堂で、二百人以上の観客の前で発表会が行われる。また、笑われるのではないか、気持ち悪いといわれるのではないかと不安になる。高校の時のように、噂が広まり避けられたり、机の中にメモが入れられたり、廊下で指を差されたりするのではと考えてしまう。 響は洗面台に顔を埋めた。冷たい水で顔を洗う。水滴が頬を伝い、シンクに落ちる音が響く。鏡の中の自分に、言い聞かせる。 ――大丈夫。藤堂を信じろ。 だが、心臓は激しく脈打ち続ける。手も、微かに震えている。 朝食は喉を通らなかった。コーヒーを一口飲もうとしたが、吐き気が込み上げてきて、諦めた。部屋の中を行ったり来たりする。時計を見る。まだ午前九時。発表会は午後二時から。あと五時間もある。 響は、藤堂からのメッセージを読み返した。昨夜届いたものだ。『明日、頑張る。お前の曲を、絶対に最高の形で届けるから』 その言葉を何度も読み返す。藤堂を信じよう。この人は、自分を裏切らない。そう自分に言い聞かせる。 だが、不安は消えなかった。 午前中、響はずっと部屋にいた。作曲をしようとしたが、集中できない。本を読もうとしたが、文字が頭に入ってこない。ただ、時間が過ぎるのを待つだけだった。 正午になり、響は簡単にパンを食べた。ほとんど味がしなかった。 午後一時、響は大学に着いた。 講堂に向かう足取りは重い。一歩一歩が、鉛のように重い。廊下を歩くたび、すれ違う学生たちの視線が刺さるような気がする。彼らは響のことを知らないはずなのに、まるで全員が自分を見ているような錯覚に陥る。 廊下の掲示板には、発表会のポスターが貼られている。出演者の名前が並ぶ中、「藤堂晴真」という名前と、

  • 響きあうカデンツァ   4-4

    「なあ、響」 藤堂が急に立ち上がった。「今から、ちょっと付き合ってくれないか?」「……どこに?」「秘密」 藤堂はいたずらっぽく笑った。「いいから、来いよ」 響は戸惑ったが、藤堂の手に引かれて立ち上がった。 二人は大学を出て、駅に向かった。電車に乗り、三十分ほど揺られる。窓の外の景色が流れていく。響は、どこに連れていかれるのか分からなかった。 やがて、二人は小さな音楽ホールの前に着いた。「ここ、何?」「俺の恩師がいる場所」 藤堂は答えた。「お前に、会わせたいんだ」 響は驚いた。恩師――藤堂が尊敬する人。「でも、いきなり……」「大丈夫。話はつけてある」 藤堂は響の手を引いて、ホールの中に入った。 ロビーを抜け、小さなスタジオに入る。そこには、ひとりの老人が座っていた。 白髪の、穏やかな顔をした老人。その目は、優しく響を見つめた。「いらっしゃい」 老人は微笑んだ。「晴真から、君のことは聞いているよ。篠原響くん」 響は緊張して頷いた。「こちらは、俺の恩師の柴田先生」 と、藤堂が紹介した。「声楽を教えてくださってる」「よろしく」 柴田は手を差し出した。響は、恐る恐る握手をした。その手は、温かかった。「晴真から、君の曲を聴かせてもらったよ」 柴田は穏やかにいった。「『ひとりの夜に』――素晴らしい曲だった」「……ありがとうございます」 響は小さく答えた。「君は、自分の音楽に迷いがあるそうだね」 柴田は椅子に座り、響にも座るよう促した。「はい……」 響は正直に答えた。「俺の音楽は、暗くて、普通じゃなくて……本当に価値があるのか、分からなくて」「普通、か」

  • 響きあうカデンツァ   4-3

     その夜、響は部屋で鷲尾の言葉を反芻していた。 パソコンの前に座り、自分の曲を聴き直す。どれも、暗く、重く、孤独に満ちている。ヘッドホンから流れる旋律が、心に突き刺さる。 これを、明るく変える? 響は首を振った。それは、できない。自分の感情を偽ることは、できない。 だが、鷲尾の言葉も頭から離れない。「聴く人のことを考えるべきです」 その言葉が、繰り返し響く。 響は窓の外を見つめた。街の灯りが、遠くに見える。あの灯りの下で、どれだけの人が音楽を求めているのだろう。そして、自分の音楽は――その人たちに届くのだろうか。 その時、携帯電話が鳴った。藤堂からだった。『明日、時間ある? 話したいことがあるんだ』 響は少し迷ったあと、返信した。『……ある』『じゃあ、大学の中庭で。昼休みに』『分かった』 響は携帯を置いた。画面の光が消える。 藤堂は、何を話したいのだろうか。 もしかして、鷲尾のことだろうか。 響は、不安と期待が入り混じった気持ちで、夜を過ごした。眠れない夜。天井を見つめながら、考え続けた。 * 翌日の昼休み。 響は約束通り、大学の中庭に向かった。初夏の日差しが強く、木陰が心地よい。ベンチには、すでに藤堂が座っていた。「よう、来たな」 藤堂は笑顔で響を迎えた。だが、その笑顔は、いつもより少し硬いように見えた。「……それで、話って?」 響はベンチに座った。木陰の涼しさが、肌に心地よい。「ああ」 藤堂は真剣な顔になった。「鷲尾さんから、連絡あった?」「……ああ」 響は頷いた。藤堂も知っているのか。「何ていわれた?」 響は少し迷ったあと、鷲尾との会話を話した。音楽を変えろといわれたこと。大衆受けする曲を作るべきだといわれたこと。明るく、ポジティブに――そう調整しろと。

  • 響きあうカデンツァ   4-2

     その日の夕方、響は練習室に向かった。 久しぶりに、グランドピアノの前に座りたくなった。美咲の言葉が、響の心を動かしたのだ。音を奏でたい――そう思った。 三階の奥の練習室に入り、扉に鍵をかける。誰にも邪魔されない空間。ここだけが、響の聖域だった。窓から差し込む夕陽が、ピアノの黒い天板を照らしている。 響は鍵盤に指を置き、目を閉じた。 そして、そっと弾き始めた。 最初は静かなアルペジオ。それが次第に高揚し、和音が重なっていく。響の心の中にある、言葉にできない感情のすべてが、音となって溢れ出していく。 孤独、痛み、恐怖――そして、小さな希望。 藤堂に出会ってから芽生えた、温かな感情。 美咲の言葉に背中を押された、前に進もうとする気持ち。 響は夢中で弾き続けた。時間の感覚が消え、ただ音楽だけが存在する。指が鍵盤を滑り、音が空間を満たす。 曲が終わると、響は深く息を吐いた。体が熱い。額に汗が滲んでいる。 その時、背後から拍手が聞こえた。 響は驚いて振り返った。扉の前に、見知らぬ男性が立っていた。 三十代後半くらいだろうか。黒いスーツを着て、鋭い目つきをしている。だが、その表情には穏やかな笑みが浮かんでいた。整った顔立ちと、どこか余裕のある雰囲気。「……誰?」 響の声は警戒に満ちていた。鍵をかけたはずなのに、なぜこの人が入ってきたのだろう。「失礼」 男性は一歩前に出た。革靴が床を叩く音が響く。「扉が開いていたもので。素晴らしい演奏でした」 響は警戒した。扉は確かに鍵をかけたはずだ。それに、この男性は――見たことがない。「私は北川怜の知人でして」 男性は名刺を差し出した。その動作は、洗練されていた。「鷲尾誠司と申します」 響は名刺を受け取った。そこには「RMエンターテインメント プロデューサー 鷲尾誠司」と書かれていた。高級感のある紙質。金の箔押し文字。「プロデューサー……?」 

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status